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ヨーセン1番地


Lemoned I Scream(終)

Category: Lemoned I Scream(完結)   Tags: ---
目を開けると、そこには岡崎の顔があった。
ほのかに温かい感触を後頭部に感じた。
どうやら膝枕をされているようだった。


まだ薄暗く、空は青と緑の中間の色をしている。
わずかに上った太陽がガンジス川で反射をし、階段状のガートで光がゆらゆらと輝いている。


「目が覚めた?」


岡崎がボクと視線をあわせようとしない。
ただガンジス川を眺めていた。


「もうすぐ夜明けだわ」


「いい兆候だよ」


「まるで大団円」


「全部が終わったのだろう?」


ボクは聞いた。


「あなたの冒険はね」


岡崎はボクの髪をなでる。


「だけど、私の冒険は始まってもいなかったの」


ガンジス川の流れる音が心地よく聞こえる。
湿度を含む生ぬるい風は、やがてくる雨季を予感させた。
とても静かだった。
ボクは起き上がった。
先ほどの戦いでできた傷は、すでにすっかりふさがっていた。


「ヨーセン」


岡崎が呼んだ。
ボクは驚いた。
彼女は泣いていた。


「ありがとう」


なぜお礼を言われたのか分からなかった。
ふいに子どもの頃にデパートで一人迷子になったことを思い出した。
なぜそんなことを思い出したのだ。
不吉な予感がした。
ボクは彼女の名前を呼ぼうとした。
でも、口の中が乾いて、上手く言葉にすることができなかった。


ガンジス川の音が聞こえる。まるでアメーバのように耳元でこびりついている。
そのとき初めておかしいと思った。
なぜ水音がここまで鮮明に聞こえるのだ?
夜明け前は巡礼者が集まる聖地なのに。
なんでこんなにも静かなのだ?


「また、お弁当を一緒に食べたいわね」


さよなら、と言って、彼女は消えた。
目の前から。
ストンと。


岡崎が消えた、と、ボクは心の中でつぶやいた。
それは分かる。
だけど、それがどういう意味を持つものか理解できなかった。


どれくらい立ちすくんだのだろう。
突然、空気が、音が、人の気配がよみがえった。
そして、ボクは二度と岡崎に会えないのではないかと思った。


「鬼ごっこもようやく終わったわね」


ボクを現実の世界に引き戻したのは紫さんの声だった。
彼女は右手に日傘を、左手に頭にかぶせているものとまったく同じデザインの帽子を握っていた。
ひとつだけ違うところがあるとすれば、手にしていた帽子には赤黒い斑点がついていることだ。


「久しぶりにボクが勝ったよ」


「たくさんヒントを出してあげたもの」


「助っ人キャラもいたしな」


「悪魔のサポートって聞くと、犯罪者の臭いがするけどね」


「先生はすぐに帰ったようだね」


「ええ、私にそっくりな玩具を持って」


「立つ鳥跡を濁さず」


「さすがは恩師といったところかしら?」


「岡崎をどこへやったんだい?」


ボクはポケットからタバコを取り出した。
だけど、それは血液で使い物にならなくなっていた。
思い切り握りつぶしてから、元にあった場所に戻す。
紫は目を細めて静かに笑っている。


「どうしてあなたは生きているの?」


「質問を質問で返すのは嫌いなんだけどね」


「いいから答えてよ」


やれやれ。
会えたと思ったら、いきなり質問攻めか。


「マジメに答えるべきだろうね?」


「あなたは人生の岐路を他人にゆだねるほど愚かではないと思っているわ」


「自分の名前を覚えてもらうため」


「わがままね」


「いまさらだよ」


「あの女性はあなたのことを覚えていると思う?」


「ボクは覚えている」


ボクはできるだけ自分の意思を正確に伝えようとした。


「忘れるほどインパクトの薄い女じゃないんだ」


「ふぅん」


紫さんは地面に傘をつけて、先端をくるくると回している。


「岡崎はどこにいるんだい?」


「私はひどい目に遭ったのよ?」


「でも岡崎は生きている」


「どうだか」


「教えてくれよ」


紫さん、とボクは言った。


紫さんが口の端を大きく横に広げた。
一つだけ指を鳴らすと、頭上の空間が開いて、岡崎が落下した。
ボクは慌てて抱きかかえる。
岡崎は静かに寝息を立てていた。


「随分と意地悪なことをするね」


「あら、それは私の台詞よ」


彼女は腰に手を当てて、頬を膨らませながら紫さんはボクに訴えてきた。


「私の名前を最初に呼ばないんだもの」


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おわり。
いやー、長かった。これで肩の荷が降りました。
いつでも降ろしてもいい荷物だったですけど。

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Lemoned I Scream(18)

Category: Lemoned I Scream(完結)   Tags: ---
好きです、この動画。
回を追うごとに面白くなっていくとか、すごすぎです。





このインド小説も次回で最終回ですね。長かった。


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錆色の地面に、虹色の空があった。
一瞬、まばたきをする。すると地面と空が入れ替わった。
上下左右奥行きすべての感覚が無い。
ここにあるのは小さな宇宙。


生と死が隣り合う世界。
そして、その境界を少しだけ曲げたのは目の前にいる女。


「おまえのことはなんて呼べばいいのかな?」


ボクはハエたたきを片手で背負うようにして持つ。
紫さんの偽者は足を一歩も動かさずに、まるで宙に浮いているかのように近づいてきた。


「八雲紫でいいわ」


「その名前はすでに予約済みでね」


「あなたが私を認めない最後の生き物になりそうね」


彼女がするりと右腕を伸ばした。水あめのように曲がる光が、綿毛のように両腕で舞っている。
腕が小さな円を描くように動く。ゆったりとしているが緩慢ではない。
風呂の温度を均一にするために湯船をかき回しているような動き。
すぐに変化が現れた。光は質量を持って、ぼたぼたと落ちる。
男性の腕の長さほどあるテラテラと光る白い物体の先端から三本の切れ目が走ると、赤い目と口ができた。
さながら白い蛇だ。


「あなたが傷ついたらどう思うのかしらね、あの二人は」


「海外旅行傷害保険に入会するだろうね」


「とりあえず動けなくしてあげるわ」


数匹の蛇が弾けるようにして襲ってきた。
ボクはハエたたきでなぎ払う。蛇は肉片すら残さずに消し飛んだ。
幻想郷で有数の実力をもつ紫さんの持ち物だ。こんな出来損ないに遅れを取るわけが無い。


あらあら、と彼女が言う。台詞にはそれなりに驚きが含まれていた。
だが、それだけだ。単純な計算式をミスしたのに気づいただけ。
1+1を3と書いたならば、すぐに2と直せばいい。


次は蛇の数を倍にして攻撃を仕掛けた。その次は数を増やして変化をつけた。
前後同時に、その次は上からも、その次は左右から。
ボクの肩が、ふとももが、わき腹が蛇に食いちぎられ、体中に生ぬるい液体がべったりと張りついた。
目がかすみ出した。わずかな呼吸で息切れがする。自分の汗でさえ熱い。体温が急激に下がった気がした。


「勝手に生み出された機械のような私に、いいようにやられる気分はどうかしら?」


「望まれない命なんて無いって、テレビが宣伝していたよ」


「赤い髪のモルモット要員なのよ、私は」


「どうして言い切れるんだよ」


「あなたなら分かるでしょう?」


……非統一性魔法論。
この立証、そして、魔法を使って母親を生き返らせることが岡崎の目的。


「尊い犠牲が必要らしいわ。私の能力を解読するには」


「紫さんが行方不明になった理由はそれか……」


岡崎は魔法のような能力を身に付けている紫さんを使って、非統一性魔法論を立証しようとしたのだ。
そのためには紫さんの能力を解読する必要がある。
岡崎の知識をフル稼働させれば、どんな妖怪でも捕まえることはできるだろう。
そう、たとえば、新エネルギーの開発で生み出した科学の魔方陣。
これならば、たとえ紫さんクラスの妖怪であったとしても動きを封じることだけならできる。
だけど、どうやって紫さんを捕まえたのだ?
いくら岡崎が天才といっても、紫さんが人間一人に後れを取ることなど考えられない。
そして、思い出した。
ラール・キラー、タージマハルで見せた岡崎とムイ・レーのID。
インド軍隊。
なるほど、この国は核兵器を超える武器を喉から手が出るほどほしがっている。魔法の立証はすなわち
インドの軍事的優位を生み出す。
両者の意見は一致したのだ。
人間はあらゆる生物の中で、もっとも暴力を使うことに長けている。
軍隊は暴力のプロだ。そのドス黒い力を駆使して、紫さんを罠にはめ、捕まえたのだ。
なりふり構っていられなかったのだろう、岡崎は。


「捕まえたまではよかったらしいわ」


彼女の瞳の色が深みを帯びた。


「けれど、生きたままの調査では、魔法の仕組みがわからなかった」


岡崎は難儀な性格だ。曖昧を曖昧のままにしない。


「モルモットをたくさん造ったみたいね」


ムイ・レーはこの過程で生まれたのか。


「私は解剖のためだけに生まれたのよ」


そして偽者は反逆を企てる。
いち早く気づいた岡崎がムイ・レーと共に逃げる。
捕らわれていた紫さんは最後の力を振り絞って、ボクにコンタクトを取った。
河川敷にいた紫さんは、ボクが腕をつかもうとした瞬間に消えた。
あのときはスキマで逃げたと思った。
でも、違った。
肉体と魂を一時的に分離させたのだ。あそこにいた彼女は魂だけだったのだ。
そして、肉体で携帯電話に連絡をした。
早く追いかけてきて。
追いついたよ、ようやく。


「私にだって生きる権利はあるわ」


「殺す権利まで無い」


「妖怪には試験も何にも無いわ」


「義務を果たさずに権利を主張するのはよくないね」


「まずはその腕からもいであげる」


彼女が近づいてきた。
深呼吸をした。
大丈夫だ。傷は一見深いが、まだ動くだけの余力がある。エリスさんとの契約の
おかげだ。
彼女がボクを見下ろした。
不意打ちが通じるのは一撃だけだろう。
それを外せばお陀仏。閻魔の世界。
いや、やめよう、諦めないことだ。重要なことは諦めないこと。絶対に倒す。
彼女は腕をもぐと言った。
それはつまり、ボクに接近する意味を持つ。
その瞬間を狙って、ハエたたきを胴体に突き刺す。その覚悟を決めた。


「私に生きがいを感じさせて」


彼女はボクのあごを持ち上げた。
まっすぐに向ける視線は、オリジナルのそれに似ていた。幻想郷を誰よりも愛し、崩
壊を導くおそれのある全てから守ろうとする強い意志。
同じ力が彼女の瞳にも宿っている。意思に反するものはすべてを削除する、そんな
圧倒的な強さ。
いや、違うな。幻想郷にいる者なら全員が持っているはずだ。それならボクも同じことだ。


ボクは彼女の細腕を左手で強く握った。
右手にはハエたたき。彼女の急所を突くイメージを、すばやく頭の中で整理した。
ハエたたきで貫くのは心臓だ。妖怪にとっても心臓は弱点の一つだ。なによりも
狙いやすく、決定的なダメージを与えられる。
紫さんほどの古参妖怪であれば失ったとしても死ぬことは無いが、それでも
動けなくなるほどの重症を負ことは必須だ。
彼女に視線を向けたまま、ハエたたきを彼女の胸に突き刺した。ゆっくりと、だが確実に。
ぬるりと体内を進む感触がした。
そのまま横なぎに払う。
ガチリ。
固いものがぶつかった。
骨だろうか。
これ以上、横に動かせない。
慌てて引き抜こうとすると、彼女の体がビクンと縦に揺れた。


「このくそがあああああ!」


彼女が叫ぶのと同時に、ボクの体が浮き上がり、胸から地面に叩きつけられた。
肺が強烈な熱を帯び、口から液体があふれ出た。
鉄の味が口内で暴れる。呼吸ができない。血が呼吸器をふさいでいるようだ。
喉元でゴボゴボと音がする。苦しい。一度、二度と、血を吐いた。
四度目の吐血でようやく呼吸ができるようになったが、今度はまぶたが鉛をぶら下げ
られたのではないかと錯覚するほど重くなっていた。
だめだ、いま意識を失ってしまったら全てが終わる。
両肘をつかって体を起こす。ひざが震えた。決して手を離さなかったハエたたきを
杖の代わりすると、先端がずるりとすべった。臓物のかけらがこびりついていた。
紫の偽者に視線を向ける。胸にぽっかりと穴が開き、肉がヘドロのように垂れ下がっていた。
ボクを吹き飛ばしたときに、ハエたたきで肉ごともっていかれたのだろう。
彼女も重症のようだ。
もうすぐだと思った。
あと一太刀をあびせることがことができれば、彼女の創ったこの空間は壊れる。
そうすれば二人が自由になる。


殺す、殺すと、彼女は同じ台詞を呪詛のように口走っている。
日傘の先端をこちらに向け、レーザーにも似た光の束をぶつけてきた。
それを避けるだけの体力はすでに無い。
ぶつり、ぶつりと体の一部を焦がしながら、光が背後で消えていく。
彼女は決して近づいてこなかった。


「くそったれ……」


かわせないならば立ち向かうしかない。
やまない攻撃に向かって進む。
片目は血が入ってよく見えなくなっていた。
ボクは想像した。
孤独の中、紫さんがどういう気持ちでボクを呼んだのかを。
プライドが高くて人の言うことなんて耳を貸さないくせに、ボクに頼らなければ
ならなかった岡崎のことを。
左腕はもう動かない。
ナメクジのように右足を引きずりながら、やっと彼女をボクの間合いに入れた。


「悪いことをしたらね……年上が叱らなきゃいけないんだよ」


「オリジナルの知識も引き継いでいる。問題ないわ」


「耳年増はよくないね」


「オリジナルを苦しめるために、ゆっくりと時間をかけて殺そうとしたのだけど……」


彼女は日傘を逆手に持ちなおすと、そのまま振り下ろした。
するどい先端がどこを狙っているのか不思議とわかった。
心臓だ。
速い。逃げられそうも無い。
死を意識した。
こんなところでゲームオーバーになるなんて。
どうやら走馬灯は見れそうもない。
二人ともごめん。あの世で必ず謝るよ。
やがてくる死の世界を覚悟して待った。
目を閉じた。
ガチリと、肉が裂ける音がした。
不思議と痛みは無かった。
これで終わりとは。
あっけないもんだね。
でも、こんなものかもしれない。
死ぬことは、ね。


「情けないわね」


戦っていた女性とは違う声が頭の上で聞こえた。


「ねえ、ヨーセン君、私は言ったわよね?」


その声にボクは聞き覚えがあった。
そして、思い出し、震えた。


「諦めたなんて言ったら、世界中のどこにいてもぶっとばすって」


「……エリス先生」


日傘は先生の手のひらを貫通し、先端がボクの目の前で止まっていた。


「あんたは誰よ!?」


「ヨーセン君、早くしなさい」


ボクは大声で叫んだ。
足をもつれさせながら、ハエたたきを振り下ろすために体ごとぶつかった。
紫さんの偽者は鋭い悲鳴を一つだけ上げると、そのまま前のめりに倒れた。
先生は笑っていた。
それを見届けた後、ボクの記憶は混濁の中に沈んでいった。

Lemoned I Scream(17)

Category: Lemoned I Scream(完結)   Tags: ---
とりあえず完結を目標に。
ほぼ一発書きなので、そのうち加筆修正したいです。


……しないと思いますが。


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ムガル・サラーイ駅。
到着は夜中の2時。予定よりも6時間遅れての到着。
日本なら大々的に取り上げられそうなニュースだけど、インド人はどこ吹く風だ。
プラットフォームには始発に乗り遅れないためなのか、宿に行くのが面倒くさいのか、
ホームレスなのかわからない人たちが数十人眠っている。
電灯はほとんど点いておらず、薄ぼんやりとした風景の中でパタパタと羽音を立てながら
昆虫が何匹も目の前を通り過ぎる。


駅を降りると、暗闇の中で数台のリクシャが見えた。
リクシャの語源は日本の人力車で、人力ではなくオート三輪で走るインドの代表的な乗り物だ。
タクシーよりもぐっと安く、旅行者はよく活用している。
流石に深夜なので、ほとんどの運転手は車の中で眠っていた。
リクシャを蹴り飛ばして、たたき起こす。
運転手は店じまいだよ、と言わんばかりに片手で追い払うような仕草を見せた。
ポケットにしまっていたマルボロに火を点けて、わざとらしく見せびらかした。
どうやら起きたようだ。


「それ、くれないか?」


ボクは煙を吐きながら、目的地近くの地名を告げた。


「タバコ2本なら、目も覚めるのだが」


駅から離れると、明かりは何一つ無かった。
リクシャが文字通り暗闇を切り裂きながら走る。
太ももにひじをつけ、両手を重ねた。
紫さんと、岡崎がいる場所に近づいている。
ボクは二人を救えるのだろうか?
不意に大学受験のために初めて海外に行ったときのことを思い出した。
凍死した人間に心臓を鷲づかみされているような気分になった。
ボクの力では、どうにもならないんじゃないか。
いや、二人はすでに死んでいるのではないのか。
希望は希望でしかないのではないか。


「諦めたなんて言ったら、世界中のどこにいてもぶっとばすわよ」


かつて何度も聞いたエリスさんの言葉がよみがえった。
不安で押しつぶされそうなときに救ってくれた言葉が。
突然、運転手がエンジン音にも負けないほどの大声で歌いだした。
眠気を覚ますためなのだろうか。下手くそだった。でもそれがよかった。
エリスさん、ありがとう。
あの言葉はずっとボクの背中を支えてくれる。
あなたはボクにとってかけがえの無い恩師です。
人間を食べる悪魔だけど。


目的地に着くと、すぐ近くにあったゲストハウスで泥のように眠った。
起きたのは夕方の4時だった。


シャワーを浴びてから着替えた。
紫さんからもらい、エリスさんの腕を吹き飛ばしたハエたたきをバックパックから取り出した。
ハエたたきはインドでは相当目立ったようだ。腹ごしらえのためによったカレー屋で、
店員に使い方について質問をされた。
悪さをした子どもを叱るためのアイテムだと答えた。


ガンジス川が見えた。
川岸に設置されたガートと呼ばれる階段には、巡礼者、観光客、物乞い、死を待ち望む老人、
クリケットにいそしむ子ども、それを写す西洋人の前で休む牛と様々な生き物であふれかえっていた。
ゆっくりと上流へ向かって歩くと、やがて目的地に着いた。


マニカルニカー・ガード。


ガートに腰掛けた。ガンジス川に浮かぶボートの上で、子どもがこちらに向かって手を振っていた。
布に包まれた遺体がどこからか運ばれてくる。
巡礼者と思わしき人がボクに火葬の様子を説明してくれた。
マザーファッカーはガンジス川を使えないと教えてくれた。
妖怪や、悪魔や、変人を友人にもつボクは歓迎されていないようだ。
薪代を支払ってから、人生を終えた人間が燃える様子をただただ眺めていた。
日がすっかりと沈み、タバコを2箱吸い終えた。
空気が一変した。
背中にぬるりとした感触が走ったかと思うと、世界が発光した。
ガンジス川が錆色に歪むの空間となった。


「こんにちは」


紫さんの偽者が日傘を差しながら、首をわずかに傾けて微笑んだ。


「そして、死ね」


-------------------------------------------------------------


以下、コメント返しです。

Continue »

Lemoned I Scream(16)

Category: Lemoned I Scream(完結)   Tags: ---
前回は眠すぎて意識を失いかけながら書いたので、
見返してみてびっくりしました。


ひどい。


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紫さんの偽者は腰まで伸びた金髪に、西洋人形が着るようなすみれ色のワンピース、
頭にかぶせた白のハンチングには赤いリボンという本物そっくりの姿をしていた。
汚れたベッドに腰掛けるのをためらっているのだろう。彼女は歪めた空間の上に座っていた。
自然、ボクを見下ろすかたちとなる。


「岡崎はどこにいった」


偽者は何も答えない。
立場は私のほうが上だと言わんばかりだった。
唇を舌でぬらす。
毒々しいまでの赤色は人間とはまた違う色香を漂わせている。


「おい、こら。岡崎はど……」


「黙っていなさい!」


日傘の先端で天井の電灯を割った。


「あなたに発言権はない」


「怒るなよ。脳細胞が死ぬぜ」


「黙れ」


頬をなにかが切り裂いた。
日傘だ。
紫は月明かりに照らされて、黄金に輝いている。
月光と同じ色の瞳がボクを映している。
ガタンガタン。
送電線の影が規則正しいリズムで二人の間をすり抜ける。
ガタンガタン。


「さて、コレを渡しておくわ」


らくらくホンだ。こんなものは使うほど、まだ機械に対して苦手意識を持っていない。
こんなものはいらないと視線だけで返事をする。


「分身の持ち物なんだけどね」


納得した。


「あなたの国の文化では遺品っていうんでしょう? そういうのって大事なものらしいじゃない?」


「誰が死んだって言うん……」


「八雲紫」


彼女は言った。


「幻想郷の妖怪。境界を操る能力。私の本体。それが死ぬ」


「正確には、まだ、死んでいない」


「これから死ぬ。間違いなく」


「なぜ殺す?」


「邪魔でしょう? 同じ存在が2つあるなんて」


自分がまったく同じ世界にもう一人いる想像をした。
なるほど、それは気がめいる。


「でも、二人いるのは紫さんのせいじゃない」


「そうよ、彼女だけのせいじゃないわね」


岡崎と、分身のせいなのよと言った。だから、殺すの。


「邪魔をしに来たら殺すわよ」


「邪魔はしない。ただ、二人を生きて日本に連れてかえる」


「面白いことを言うわね」


「遊びに行くから、お茶菓子用意して待っててくれ」


「そんな義理はないわ」


「ボキャブラリーが貧困だな。紫さんはもう少し気の利いた返事をする」


「たとえば?」


「海老で鯛を釣ったわ」


「は?」


「ボクは食料として、紫さんの胃袋に入る」


「あなたは私の分身のなんなの?」


「異業種交流ができる数少ない相手の一人」


「友人」


「あるいは」


「あなたが死んだら、分身は悲しむかしら?」


「悲しんでくれなかったら、ボクは泣く」


彼女は左手をあごにあてると、右手でボクの襟首をつかんで引き寄せた。


「なるほどね」


彼女はボクの頬につけた切り傷を舐めた。


「待っているわよ。真夜中の日付が変わる時刻。マニカルニカー・ガードで」


空が割れ、紫さんの偽者が飲み込まれた。
あたりは電車の振動しか聞こえなくなった。

Lemoned I Scream(15)

Category: Lemoned I Scream(完結)   Tags: ---
セイレンよ!
こんばんは!


ピッピッピッピッピー!
ラジオやりたくなりました!


ラジオ!


私はテレビより、断然ラジオ派よ!
それだけ。


さて、「Lemoned I Scream」の続きを書きます。
書かないとか言っていたのに、舌の根が乾く寸前に撤回よ。


でも、だれも待っていないと思うので問題ないわよね!?
とりあえず、ストーリーを忘れました!!
アウフ!


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アーグラーから、ガンジス川へ向かう。
アーグラー・カント駅から外国人専用窓口で寝台列車の1等席を買う。
ムガル・サラーイ駅行きの出発時刻は、すでに2時間も遅れている。
そろそろ夕方になる時刻だが、ホームを照りつける日差しが凶悪なまでに強い。
親子連れのインド人の何組かが日陰で昼寝をしている。自由な国だ。
駅前の売店でドライカレーを買う。


「カレーは辛くないヤツがいいよ。ノー・スパイシーだよ」


売店のおばちゃんは、弾けんばかりの笑顔で商品を渡してきた。


「私は甘口が好みなの」


岡崎は薄手の赤いシャツを羽織っている。
コートは留置所でこびりついたカビの臭いが取れなくて、
駅前で会った物乞いに譲った。エコだ。


「カレーの王子様っていうレトルト食品が日本にあるわけだが」


「バカね、私は女の子よ」


アルミ製のパックに包まれたカレーを手づかみで食べる。
舌が焼けたかと思った。
ひりつくように熱い。


「これがインドの甘口かしら?」


僕のハンドタオルで、岡崎が口を押さえている。


「おばちゃんは、そう言ったんだ。ヒンディー語で」


「いつのまにそんな言葉を話せるようになったのかしら?」


「昔からだよ。ただね、理解ができないんだ」


「私の話している意味も理解してもらえない」


「非統一性魔法論」


「あなたのそういうところ、好きよ」


このカレーはキライだけどね、と岡崎は付け加えた。


列車は30分後に来た。
個室にソファーのような備え付けの二段ベッドが2つ。
上のベッドにバックパックを放り投げた後に、ゆっくりと腰掛けた。
岡崎が隣に座り、ボクの肩に頭をのせた。
彼女は目をつむっている。
窓から生ぬるい黄色の光がぬるりと入り込んでくる。
視界がわずかに揺れ、車輪のきしむ音が聞こえる。


「マニカルニカー・ガード」


生と死が隣り合う場所よ。彼女の柔らかな唇が動いた。
一度だけ訪れたことがある場所だ。
ガンジス川と隣接する火葬場。
24時間火葬の煙が途絶えることがない。
そこは生と死が溶け合う聖域。


「そこで、ムイ・レーを創ったの」


「魔法を実証するため」


「そうよ。肉体は博麗霊夢をベースに創った。だけど魂が無い。無。ダークマター。ブラックホール。そこに生命の温かみはないの。死の静謐だけ。すぐ隣に命があるはずなのに届かない。命の扉が開けない」


「……紫さんで開いたのか」


岡崎の嗚咽を肩越しに感じた。
肩が濡れている。
彼女の瞳から流れた熱いものが原因だろう。


お母さん、と彼女はつぶやいた。


ボクは彼女の頭をなでた。
柔らかく、自己主張のない、引っ込み思案の感触がした。
出合ったときと何も変わっていないな、と思った。
いつのまにか日が暮れ、彼女は寝息を立てていた。


列車の揺れる音がカンに障った。
部屋を出て、タバコに火を付けた。
吐き出した煙がうっすらと体にまとわりついている。
生き物の魂も、こんなあやふやな存在なのかもしれない。


岡崎の母親は、ボクが大学を卒業した日に病死した。
岡崎の唯一の肉親。
大学に入れるために酷使した肉体にいつの間にか病魔が巣食っていた。
よくある話しだ。


死者を生き返らせることはできない。
それは生命のルールだ。
小学生でも理解している。
いや、犬や猫でさえも。


でも、法則は常に正しいとは限らない。
それをボクたちに教えたのが大学だ。
正しいと思うものを、常に疑うこと。
それが新たな発見につながる。


それならば、人は生き返るのではないのだろうか?
そこには新たなルールがあるのではないのか?
そう、たとえば、魔法が存在しているならば、存在するすべてのルールが変わる。


やれやれ。


携帯灰皿で乱暴に火種をもみ消した。
ボクはどうすればいいのかわからない。
大学のときからそうだった。
フリーディスカッションのとき、論文を書くとき、ディベートのとき、
ボクは人よりも回答を出すのに時間がかかる。
ギリギリまでかかるのだ。


でも、問題はすでに出ている。
ボクは回答をガンジス川で出さなければならない。


個室の扉を開ける。
そこにいるはずの岡崎はいなかった。


「ハロー」


聞き覚えのある声だった。
口元に扇子をあてている、タージマハルにいた紫さんの偽者がそこにいた。

プロフィール

ヨーセン

Author:ヨーセン
ただ、ダラダラと。
鰻は世界一美味い食べ物だよね?

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